名古屋地方裁判所 昭和40年(行ク)9号 決定 1965年9月10日
申立人 愛知県地方労働委員会
被申立人 第一運輸株式会社
主文
被申立人は、原告被申立人、被告申立人間の昭和四〇年(行ウ)第三〇号不当労働行為の救済命令取消請求事件の判決の確定に至るまで、林養一を原職に復帰させ、同人に対し昭和三九年三月五日以降原職に復帰するまでの間月額金三〇、〇〇〇円(但し昭和四〇年四月一日以降は月額金四、〇〇〇円)の割合による金員を支払え。
(裁判官 山田正武 浅野達男 寺崎次郎)
緊急命令申立書
申立の趣旨
申立人を被告とし、被申立人を原告とする貴庁昭和四十年(行ウ)第三十号不当労働行為の救済命令取消事件の判決が確定するまで、被申立人は林養一を原職に復帰させ、かつ同人が解雇された昭和三十九年三月五日以降原職に復帰するまでの間に受けるはずであつた諸給与相当額を支給しなければならない。
申立費用は被申立人の負担とする
との決定を求める。
申立の理由
一、申立人委員会は、さきに昭和四十年五月十日付をもつて被申立人会社に対して労働組合法第二十七条第四項に基づき、
被申立人は、申立人組合の組合員林養一を原職に復帰させ、同人が解雇された昭和三十九年三月五日以降原職に復帰するまでの間に受けるはずであつた諸給与相当額を支給しなければならない。
申立人のその余の申立はこれを棄却する。
との命令を発し、右命令書を昭和四十年六月四日被申立人会社に交付したところ、被申立人会社はこれを不服として申立人委員会を被告として救済命令取消請求訴訟を貴庁に提起し、該訴訟は貴庁昭和四十年(行ウ)第三十号不当労働行為の救済命令取消事件として係属している。
二、右命令は訴外全国自動車運輸労働組合名古屋地区南部合同支部から被申立人会社を相手方として不当労働行為救済申立を申立人委員会になしたものであつて、右申立事件の概要は次のとおりである。
(一) 即ち右訴外支部は、被申立人会社が林養一に対してなした解雇は、同人が訴外支部の長良分会長として同分会結成以来常に分会の中心になつて活発な組合活動を行なつて来たので、この林養一を解雇することによつて長良分会を潰滅しようとすることを理由にするものであつて、明らかに不当労働行為であると主張し、申立人委員会に前記主文同旨および謝罪の意を表明する公示を被申立人会社が掲示することを内容とする命令を求めた。
(二) 被申立人会社は右訴外支部の救済申立は棄却されたいと申し立て、解雇せられた林養一は無断欠勤および病気欠勤が多く会社が職制を通じて数度に亘つて注意をしたにも拘らず林養一はこれに従わなかつたばかりでなく却つて反抗的な態度を示したので就業規則に基づいて同人を解雇したのであつて、右分会を潰滅しようという意図をもつて解雇したのではない。そのことは、現に会社は会社に並存する二つの組合についてそれぞれの自主独立性を尊重して団体交渉に応じている、その実情をみれば明らかであると答弁した。
(三) 申立人委員会は右救済申立を受理して事件の調査・審問を行ない、昭和四十年五月十日開催の公益委員会議において合議の結果、第一項記載のとおり命令を決定し、右命令書は同年六月四日配達証明の書留郵便によつて両当事者にそれぞれ送達された。
三、しかるに被申立人会社は前記命令を不服として、貴庁に対して訴を提起したことは前記のとおりであつて、現在に至るまで右命令を履行しておらずまたこれを履行する意思がないことは明らかである。
林養一は昭和三十九年三月五日被申立人会社から解雇の申し渡しを受けて以来安定した収入を得られなかつたので、同年三月六日以降、訴外支部およびその上部団体である全国自動車運輸労働組合から生活資金として貸付金あるいは資金カンパを受け、また被申立人会社が供託した林養一の解雇手当を生活のためにやむを得ず受領し、その他失業保険金等で昭和四十年三月まで生活を維持して来た。
しかし、昭和四十年四月以降は前記の収入を期待することができなくなり、矢島商店(林養一の妻の父)のアルバイトをして、それによる収入月手取二万六千円程度と妻の収入月手取三千円(煙草小売販売の手伝い)とで現在まで生活を営んでいるが、右収入をもつてしてはすでに預金も殆ど使い果しているので、とうてい林養一および家族六人(妻と子供五人)の生計を維持することは困難である。
しかして、この訴訟の判決確定までには相当の期間を要することと思料せられるのみでなく、その間林養一が原職復帰・賃金支給等の救済を受けることができないとすれば、同人は生活の道を絶たれ回復し難き損害を蒙ることが明らかである。
なお、同人の原職復帰が現実に実現していないため、被申立人会社に従事する訴外支部の長良分会員は一名のみのままであり、同分会の活動も停滞のやむなきに至つている。
四、おもうに不当労働行為制度本来の目的は、迅速な原状回復によつて団結権の侵害を救済し、もつて労働者の経済的困窮を除去するにあるから、行政訴訟の判決確定に至るまで、右の如き回復し難き損害を避けるため、申立人委員会は昭和四十年八月二十三日の公益委員会議において、第一項記載の命令主文のうち林養一の原職復帰・バツクペイについて緊急命令の申立をなすことを決議した。
よつて労働組合法第二十七条第八項および労働委員会規則第四十七条の規定により本申立におよんだ次第である。